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「スーパーシティ」の住人に主権はあるのか?

5月22日、黒川検事長の賭けマージャンが週刊文春により表沙汰となったその翌日に当たる。
この日の報道は、折からのコロナ情報と黒川案件一色に染まった。
その裏番組のような形で国会では、「地方創生及び消費者問題に関する特別委員会」という長い名前の地味な委員会が開かれていた。
そこでは「スーパーシティ法案」なるものが審議されており、この日、委員会での採決が完了した。
あまり広く報道されていないが、いろいろ問題のある法案だ。
絶望的なのは、これを担当する答弁大臣が、あの北村誠吾氏であるということにもある。
官僚の書いた答弁書を朗読することもままならなず、数々のチョンボをかつて国会で晒した、あの北村大臣である。
こういう大臣のもとで参・委員会での短時間での審議が終了し、残るは参・本会議の採決を残すのみとなってしまったのだ。

この法案の根っこのなにが胡散臭いかということは、2019年4月に書いた記事があるので、これを参照してください。

 

加計再来になりうる「スーパーシティ」構想
「スーパーシティ」構想という言葉を聞いたことがあるだろうか? 去年の秋ごろから、小さな記事でチラホラは出ていたものの、それほど人の気にとまるほどの大きさでは報じられてこなかった。 それがここへ来て急に、「思うように進まない」というニ...

 

「竹中平蔵が絡んでいるのか!」というだけで、この以上の解説はもはや不必要とページを離れる人もいるかもしれない。
そういう人の感覚は、決して間違っていないが、具体的にどうヤバいのか、この日の委員会の質疑をもとに、さらに紐解いていきたい。
スーパーシティの問題で、最も注目されているのが個人情報の管理だが、この話はわりと分かりやすい。
国民の個人データが徹底的に一元管理されている中国を想像すれば、だいたい合っている。
それを企業が、自由に商売に活かせるようになるとことで、どんな問題が生じるかはあまり想像が難しい話ではない。

 

ここからの森ゆうこ議員の質疑では、スーパーシティという街がどういう統治システムになるのか、に焦点があてられる。
個人的には、個人情報保護の問題以前に、こちらの方が深刻だと考えている。

 

森議員「ミニ独立国家を目指しているということなんですね。どの法律も新たな規制改革事項として、その区域会議で申請すれば、それは検討の俎上にすぐさま上ると。このミニ独立国家の主権者は誰ですか?
北村大臣「スーパーシティ構想に向けた有識者懇談会の報告書に、『ミニ独立政府』という言葉があるのは事実だが、そういうものを目指すものではない・・云々」(ダラダラと朗読)
森議員「質問に答えて。主権者は誰ですか?
村上審議官「スーパーシティが、通常の憲法のもとにおける国民主権の状況を特段変えるものではないので、これからも代わりがありません。」
森議員「報告書に書いてありますよ。『そしてその未来都市を実現できる推進機関として、従来の国家戦略特区の区域会議を充実強化したいわば独立した政府。国、自治体、民間で統制する強力な推進機関。』このミニ独立政府における主権者は誰ですか?大臣。」
北村大臣「参考人がお答えした通りでございます。」←こんな答弁あるか?
・・速記止まる・・
北村大臣「主権者は国民であります。

 

これだけでもこの法案の異常さを実感できる。
「スーパーシティの主権者は誰?」「もちろん国民です。」このような当たり前の答弁を大臣がするのに、質疑ストップが必要となるのが、つまりこの法案なのだ。
これは、スーパーシティ法案でなにがしたいのか、邪悪な企てを予見させるやり取りでもある。
このミニ独立政府を事実上「牛耳る」のは誰なのか。
それが見えてくる答弁が次に続く。

 

森議員「竹中さんが有識者会議でたびたび仰っている『アーキテクト』って何ですか?」
村上審議官「法制度上、正確な定義はない。事実上のシステムを連携させる統合的に全体像を把握するリーダー的な存在を指していると思われる。」
森議員「このミニ政府では、アーキテクトが王様になるんじゃないですか?この人をどうやって選ぶんですか?誰から選ぶんですか?」
村上審議官「事業計画の大きな枠組みが決まって初めて、どういう資質を持ったアーキテクトが必要になるか見えてくる。選任方法は規定していないが、区域会議が議論して決めることを想定している。」
森議員「民間から選んで、多数決かなんかで決めるんですか?書いてありますよ、『強力な権限を与える。その推進機関には実質的な責任者を置き、その下で想像力、機動性のある人材を起用して、体制を構築することが重要である。』だから、どうやって決めるんですか?民間人なんですね?」
村上審議官「民間人かもしれないし、自治体職員かもしれない、特に制約はない。事業内容に応じてそれは変わってくる。」

 

唐突に出てきた「アーキテクト」なるポジションの人物が、この独立政府で強大な決定権を持つのだということがだんだん見えてきた。
では、その人物はどういうプロセスで選ばれるのか?
いや、誰が選ぶのか?
「区域会議が議論して決めることを想定している。」との答弁だが、では、「区域会議」とはなんなのか?

 

森議員「先ほど、福島議員の質問に『区域会議の中には住民も参加しているからそこで意向が分かる』と言ってたが、条文のどこにそんなことが書いてあるのか?何条の何項?」
村上審議官「住民の代表が加わって基本構想を練っていくのだが、住民の代表を加えることに法律としての規定はない。内閣府も参加しながら、そのようになるよう運営したい。」
森議員「住民参加って全然法律に書いてない。さっき住民参加と答弁していたが、根拠は?」
村上審議官「義務規定はないが、しっかり運用したい。」←出たよ
・・速記止まる・・

 

この後の質疑によれば、「住民の意向を確認する」ということ以外、住民が参加して物事を決めるようなことは、条文には一切書かれていないという。
この村上審議官の主張では、条文中の「住民の意向を確認する」というこの一言が、区域会議に住民も参加できることを担保したものだというが、そんな回りくどいことをするなら、条文に「区域会議は住民も構成員とする」と書けばいいだけの話だ。
法案の段階から制度運営側による「努力義務」を掲げることは、実際の運営では「したくない」との意思が現れていると言ってもいい。

 

さらに区域会議の構成員に関する質問に、審議官はこんな答弁をしている。

 

村上審議官「(区域会議には)地方公共団体の長が入ることが明記されている。この長が加えることのできる『者』として、『区域計画または認定区域計画の実施に関して密接な関係を有する者』、というのがある。これが『住民』であると想定している。」
森議員「それ、事業者じゃないの?」
村上審議官「事業者であることも多いだろうが、住民であることもあり得る。」

 

くどいようだが、だったら「住民」と明記すればいい。
『住民』が区域会議に入れてもらえることは、ほぼなさそうだ。
質疑応答では、条文の類似条件を引用して、「住民が参加できないわけではない」ということを必死に言い繕おうとするが、条文にないとは、つまり制度運用側にその気が全くないということだ。

 

この事業は、初期費用は国が支援することが前提だが、その継続にも大量の維持費が補助金として投入されそうだ。
他国の例でも、利用料だけで継続的に賄うのは困難と、審議官は答弁している。
採算が取れなくなったり、場合によっては企業が倒産したりした場合、その街から突然インフラが撤退するような事態もなくはない。
その時、国は補助金を入れ続けるのか?

 

なにからなにまで事業者優先のミニ独立政府を、竹中平蔵氏が牽引しているのがこの法案だ。
AIや自動運転、ドローンなど、世界の熱い先端技術を磨くことは、確かに大事なことだ。
こうした研究に予算を割くことには、決して反対ではない。
しかし、法にザルのように無数の抜け穴を作り、住民をだまし討ちにするようなやり方で発展する技術とは、誰のための技術なのだろうか。

 

「主権は?」と聞かれて、行政が即答できないような「特区」とはいったいなんなのか。
コロナ緊急事態や黒川マージャンの陰でこそこそ隠れて採決していることからも、この法案に対する政府の後ろめたさが、手に取るように伝わってくる。
まさに火事場泥棒的な安倍政権の竹中平蔵法案なのである。

 

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