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世田谷年金事務所長、ヘイトスピーチで更迭

週明けにこういうニュースが出ることは、すでに想像していたが、年金機構は思ったより早くことに対処した。

ツイッターで差別的な書き込みをしたとして、日本年金機構は25日、世田谷年金事務所(東京都)の男性所長を本部人事部付へ異動し、更迭したと明らかにした。所長本人から詳しく事情を聴くなどして、「処分を検討する」という。
(2019年3月25日朝日新聞)

ネトウヨアカウントの身元がバレるまでの経緯

事の起こりは、この週末くらいだったろうか。
ツイッターユーザーでない方には、いまいち経緯が分からないと思うので、ざっくり説明しようと思う。

政治アカウント界隈ではよく見かける典型的な「ネトウヨ」嫌韓アカウントがあった。
内容は、ここでは具体的に提示しないが、おそらくその人の持つ語彙から、最大限の中傷ワードをひねり出し、主に在日韓国人や有田議員・福島みずほ議員という、彼らの特徴とも言うべき攻撃相手に対して、名誉棄損で訴えられてもおかしくないレベルの中傷ツイートを数多く書き込んでいた。
そんな時、誰かが、その中傷アカウントの過去の書き込みから、同一人物が並行して利用しているインスタグラムのアカウントを発見した。
ツイッターアカウントは、他人を中傷する専用に利用していたが、インスタグラムでは、プライベート空間で個人的な写真を上げたりして楽しんでいたようだ。

ギリギリの反社会的ネット活動を楽しみながら、このリテラシーのなさが仇となった。

中傷ツイッターアカウントと、プライベートインスタグラムがリンクしたことで、想像以上に多くの個人情報が漏れた。
・本名
・どアップの顔写真
・学歴・経歴
・現在の職業的ポジション

中でも、最も問題視されたのは、彼の職業だ。

日本年金機構 世田谷事務所所長という肩書

反ヘイトスピーチの活動をしている、精神科医でも有名な香山リカ氏を、この「所長」は、彼女の本名を引用して中傷していた。
香山氏は、年金事務所へ提出する証明書等を、医師としての本名で作成し、世田谷事務所に提出することもあったという。
この所長は、こうした書類を直接目にすることはあったのか?
また、目にした場合、適切な形で受領されたのか?
年金事務所で閲覧可能な個人情報を、中傷活動に濫用したことはないのか?

などなど、当たり前の疑念が多くわく。

この「所長」のアカウントは今も生きているが、いわゆる中傷・憎悪の書き込みは本人によって削除された。
そして、これまた中傷アカウントの身元がバレたときのテンプレートだが、
「傷ついた皆様に深くお詫びいたします」
とのコメントを上げ、事態収束を図ったが、とうとうマスコミに報じられるところとなってしまった。

言葉で傷ついた人に詫びれば済むのか?

こういう中傷好きの人たちが、窮地に追い込まれると、必ず口にするのが、
傷つける意図はなかった
傷ついた方にお詫びする
というモノだ。

1月に、ヘイトスピーチ裁判で科料を受けた被告人も、同様のコメントを発していた。

66歳男性、ブログ上で中学生にヘイトスピーチで罰金刑
在日コリアンの中学生をブログで中傷した、大分市に住む66歳の男性が侮辱罪で罰金の略式命令を受けました。ネット上の匿名者によるヘイトスピーチが侮辱罪で処罰された例は、初めてです。(籏智広太 @togemaru_k) 【New】在日コリア...

ヘイトスピーチというのは、当事者が傷ついたり、正体が分からない恐怖に常に苛まれるといった、被害者への直接の害悪はもちろんなのだが、酷い中傷の言葉が社会で許容されること自体が、実は社会を大きく傷つける深刻な害悪となる。
社会で許容された中傷は、また他の中傷を呼び、社会において「それはアリ」と判断されたという認識になりかねないからだ。

多くの先進国では、特に国籍や人種の違いを憎悪するヘイトスピーチに、何らかの法的規制をかけているが、残念ながら日本では野放しといっていい。

さきに紹介した記事の「66歳男性ブログ」の加害者も、最終的には「侮辱罪」に当たったのだが、これが「侮辱罪」であるかどうか以前に、それくらいしか照らす法律がないというのが現実だ。

「ヘイトの対象となった個人の被害」しか現行制度では裁きようがなく(といっても、これとて不完全極まりない)、「社会を傷つける」という部分はスルーされてしまっているので、「反社会的」という罪そのものが、社会に認識されていない事態になっている。

これは一刻も早く法整備を、少なくとも他の先進国並みに整えるべきなのだが、そうはいかない理由がある。

公務員による中傷・憎悪スピーチの増加

ざっと思い出しただけでも、
静岡県の地方自治体で起きた、生活保護受給者への差別事件
現役自衛官幹部による、国会議員への罵倒
韓国の空港で起きた、厚労省幹部の暴行事件
一部のトンデモ国会議員たちのネット発言
と、枚挙にいとまがない。

官邸あたりを起点に、この「憎悪」の思想を持っている人が、政権中枢と「共通の価値観」を持つ者として、人事で取り立てられる傾向があると思う。
人事を担うのは、「内閣人事局」、つまり、ほぼ官邸の意向にある。

官邸の意向」・・最近よく聞く言葉だ。

「共通の価値観」を忖度したトップの官僚たちが、その下の人事を担う。
その下、またその下へと、官邸発の「価値観」は、体に血が巡るように、隅々へと伝えられていく。

近ごろの公務員の劣化が、地方公務員よりも国家公務員の方で顕著なのは、そういうことではないか。

醜悪なツイート書き込みで素性がバレた年金事務所所長は、今後どんな処分を受けるのか?
追って、注視したいと思う。

また年金機構は、この所長が業務以外の目的で、個人情報にアクセスしたことがないかどうか、きちんとチェックすべきだ。
本人が「もうしません」などとツイートしたくらいで済む問題ではない。
年金機構の良識が問われる。

追記 2019年4月11日

年金機構が調査の上、不正なデータ流用や不適切な事務処理はなかったとしたうえで、当該所長に

停職2月
※ なお、停職期間経過後の復職時において、人事上の措置として降格を行うこととしている(2019年4月11日・日本年金機構プレスリリース)

との旨を、文書にて発表した。

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