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「魅力度最下位の県」とコンサルビジネス

10月31日の読売新聞の報道に、気になるものがあった。

 

「魅力度最下位」の栃木、知事選に余波…「発信力が重要」「実力は違う」と舌戦
都道府県の魅力度ランキングで栃木県が最下位になった余波が、知事選(11月15日投開票)の論戦に及んでいる。全国に魅力を広めるにはどうしたらいいか。県民の関心が高いとみられるテーマだけに、新人で元NHK宇都宮放送局長の田野辺隆男氏(60)と現職の福田富一氏(67)の舌戦が熱を帯びている。

 

栃木県知事選の争点に「栃木県の魅力最下位」が上がっているというのものだ。
記事によれば、同月14日に、「栃木県が最下位」というランキングを発表したのは、民間調査会社「ブランド総合研究所」
現職の福田候補は、調査会社に抗議をし、調査方法や評価項目の改善を求めたという。
一方で、対抗馬の田野辺候補は、このランキングを受けて現職に対峙するという姿勢で、次のように選挙を戦っているという。

 

田野辺氏にとっては格好の攻撃材料を得た形だ。29日には、宇都宮市での第一声で「栃木県が最下位になるはずがない。(重要なのは)やはり発信力です」と力を込めた。NHKでディレクターを務めた経験から、キャッチコピーづくりに自信があるといい、陣営側は「どんどんアピールしてほしい」と期待する。
(同上)

 

「発信力」、最近流行りの言葉だ。
さてそこで、この「最下位」に関して、なにがどう最下位なのか?
発表サイトによると「地域ブランド」という視点で調査されているという。
ちなみにトップ3は、北海道、京都府、沖縄県となっていて、ここで言う「ブランド」が、観光視点であり、住民の生活のしやすさ等は基準外であることが窺われる。

 

実は、栃木県が「最下位」などというのはその程度のことで、住民がその名誉にかけて知事選の争点にするような話ではないということに、まず気が付かなければならない。

 

では、この失礼なランキングを行った民間調査会社「ブランド総合研究所」とはどういう企業なのか。
公式サイトで、会社概要を見ると、事業内容に関してこう説明している。

 

地域や企業がブランド戦略を実践的な業務として取り組み、ブランド力の向上という具体的な効果を導くためには、理論や意識だけにとどまるのではなく、専門の知識や経験のあるスタッフが地域や企業の担当者と一緒になって取り組む必要があります。
ブランド総合研究所では、PR、調査、EC、街づくり、Webなどに実績のある有力な専門企業とのコラボレーションで「地域ブランド戦略コンソーシアム」を組むことによって、多元的・専門的な取り組みを可能としました。

 

要するにメイン業務は、中央行政がのめり込む「観光立国」による地方創生政策を、地元の現場で手取り足取りコンサルする、ということのようだ。
そしてこの構図は、発表した「ランキング」が振るわない自治体は、この会社の「コンサル」を受けることで、ランクアップが出来ますよという、マッチポンプ的な売り込みが可能になる。
さらに、穿った言い方をすれば、地方の予算からコンサルを引き受け、なんらかの活動をした後に、翌年の自社によるランキングをチョチョイとすれば「効果がありましたね!」となどと言うことも可能なのである。

 

ちなみに、代表取締役は日経BP出身者。
いやもう、見るからにアレな界隈のコンサル業なのである。

 

取締役の欄にある杉山邦子氏という名前を検索すると、JBpressにこんな紹介が載っていた。

 

ブランド総合研究所 取締役エグゼクティブマネージャー。全国各地での食品のマーケティングおよび商品開発などを担当。栃木県や岐阜県などでブランド戦略等の委員を務める。

 

なんとすでに栃木県に入り込んでいた。

 

冒頭で紹介した読売新聞の記事には、このようなくだりもある。

 

告示前の街頭演説では、「イチゴが納豆に負けるわけがない。鹿島神宮より東照宮の方がきらびやかだ」と、昨年まで最下位の茨城県を引き合いに出して持論を展開。ただ、その発言には「あまり気分の良いものではない」と、陣営側からも冷ややかな声が上がった。田野辺氏は28日、「大人げなく、このような言い方をするべきではなかった」とツイッターで謝罪した。

 

毎年行われるこの怪しいランキングの最下位争いを、栃木県が茨城県と競っているところから、イチゴの名産地である栃木の知事候補が、茨城の名産品である納豆をディスったという、なんともバカバカしい出来事なのだ。
住民は、ただ「最下位」という言葉に踊らされてはいけない。
このランキング調査は、そもそもどういう意図をもって、誰が、どういうやり方で実施し、さらにどういう使い方をされているのかというところを注意深く見る必要がある。
調査元の「ブランド総合研究所」は、調査項目に関して次のように説明している。

 

調査はそれぞれの地域に対して魅力度、認知度、情報接触度、各地域のイメージ(「歴史・文化のまち」など14項目)、情報接触経路(「旅番組」など16項目)、地域コンテンツの認知(「ご当地キャラクター」など16項目)、観光意欲度、居住意欲度、産品の購入意欲度、地域資源の評価(「街並みや魅力的な建造物がある」など16項目)などを質問。調査項目は全84項目で、各地域の現状を多角的に分析できます。

 

この調査が、観光に特化していることが一目瞭然だ。
ここで一つ大問題がある。
「ブランド総合研究所」が調査の正式な表題としているのは「地域ブランド調査2020」という名称なのだが、これを一般のマスコミが「都道府県の魅力度ランキング」などと言い換えて、センセーショナルに報道していることだ。
「観光知名度ランキング」であるならば、たとえ最下位でも大して気にはならないが、「魅力最下位」というのでは、その土地に住む人は黙っていられない。
そういう失礼極まりない不正確な情報を、特定の商売のためにまるで報道であるかのように記事にするのは、これは一種のステルスマーケティングである。
報道機関として、非常に悪質だ。

 

コロナ禍で自治体と生活の距離が近くなりつつある今、ブームやイベントに乗って、自治体を話題の土地にしようなどという浮ついた考えを捨て、地に足の着いたそこで生活する人々のための行政・自治ということを、まず住民が本気で考えることが求められているように思う。
こうした現象は、栃木県だけで起きているわけではない。

 

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