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田舎で兼業・副業をすると交通費が助成される?「関係人口」ってなに?

ツッコミどころ満載の制度が発表された。
大手マスコミの中でも日経くらいしか、まだこの件を扱っていないようだ。
手短な記事なので、制度の深いところまでは見透かせない。
ただ、長い間「東京一極集中是正」を謳ってきた政府が、全く成果が出ていない、というより、そもそもやる気があるのか疑わしい政府目標を差し置いて、ごまかしてまとめる戦略にシフトしはじめたようにしか見えない。

 

その『制度』というのがこれだ。

 

《地方での兼業に交通費支援 政府、3年で150万円上限》
政府は2020年度に、東京圏に住みながら地方で兼業や副業をする人に交通費を支援する制度を始める。20年度予算案に計上した1000億円の地方創生推進交付金を活用し、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給する。交通費が往復で1万円を超える場合、国と地方自治体がその半分を兼業や副業先の企業に助成する。
(2020年1月10日日経新聞)

 

『副業』がブームというか、いろんな意味で話題になっており、ネット上にも正統に見えるものからアヤしいものまで、多くの副業が紹介されている。
しかしこの、『東京圏に住みながら、地方で兼業や副業をする人』とは、どういう副業だろうか?
地方の工場勤務とか、地方の農林漁業といった一次産業での働き手かだろうか?

 

例えば、オンライン在宅で出来る副業なら、まぁなにか出来そうな気がするけれど、交通費が「往復1万円」を超えるほど首都圏から離れた地方にわざわざ出向いてする『副業』とは、「遠方でのバイト」ということでいいのだろうか?
最低賃金は地方に向かうほど低下する傾向があるので、首都圏の人が地方でバイトを探しても、おそらく納得のいくような給与が提示されることは、あまりないだろう。

 

そういうことを踏まえたうえで、政府が首都圏在住の人に、地方に行ってアルバイトをすることを奨励する、というなんとも奇妙な制度だ。
本気で知恵を絞って作りだしたシステムとは全く思えない。
同じ記事の続きを見てみよう。

 

政府が兼業・副業の拡大を促す背景には東京一極集中に歯止めがかからない現状がある。東京圏の1都3県の転入者が転出者を上回る「転入超過」は18年に約13万6千人にのぼった。移住による地方の定住人口の増加は限界があるとみて、生活の拠点を東京圏に置きつつ地方と関わる「関係人口」の増加をめざす
(2020年1月10日日経新聞)

 

「歯止めがかからない現状」って、これまで本気で歯止めをかけようとした努力形跡がそもそもない。
一方で、一極集中を後押しするような関連政策はたくさんあったけど。

 

「移住による地方の定住人口の増加は限界がある」に関しては、「政府はもうあきらめました」とも聞こえる。
だから、「関係人口」の増加をめざす、らしいのだが・・・。
この「関係人口」という言葉、まだそれほど広く一般には浸透していない。

 

「関係人口」とは、役人が作った造語だ。
その土地の住人ではもちろんなく、観光客や一過性の来訪者でもなく、その人の出身や、個人的なその土地への「こだわり」、ボランティア活動などを通じて、度重なりその土地にやって来る人の数を「関係人口」と呼ぶ。
この数字を上げることで「関係人口が増えた」と言い、あたかも行政が何かを成し遂げたかのように見せる、官僚の悪い意味での知恵である。
「関係人口」が「人口」と類義語で捉えられるなら、日本の人口は「延べ2億人」などという事態にもなりかねない。

 

一極集中是正を政府があきらめて、こんな制度を導入することで、いったい何が解決するのか意味不明だ。
「関係人口」は、住民税や固定資産税といった税の収入源にはならない。
せいぜい消費税を少し落とすくらいだろう。

 

そして、最も気になるのがここ。
「交通費が往復で1万円を超える場合、国と地方自治体がその半分を兼業や副業先の企業に助成する。」
助成金を受けるのが、地方の「企業」であるということ。
通っている人が受け取るわけではない。

 

少し前にはこんなニュースもあった。

 

《保育士処遇改善の交付金 賃金上乗せに使われず 会計検査院》
保育士の賃金を増やすため国などが平成29年度までの2年間に保育施設に支出した交付金のうち7億円余りが、実際は賃金の上乗せに使われていないか、または使われていない可能性の高いことが会計検査院の調査で分かりました。
・・その理由について多くの保育施設は「失念していた」と回答・・
(2019年12月29日NHK)

 

本来は「保育士」という個人を支えるために導入されたはずの、国からの交付金である。
ところが、その分配を事業者の「良心・公正さ」のみに頼ったために、こういう残念な結果になった。

 

「副業・兼業」が目的で、その土地を訪れた人を支えるために助成される交通費だが、これをいわゆる「バイト先」の企業に託し「良心」に従って分配してもらう。
そんなシステムで、このお金は首都圏から来た「副業者」に入るだろうか?
ただでさえ先細って苦しんでいる地方の事業者が、正直にバイト人に助成された交通費を渡すだろうか?
一部良心的な事業者はいるかもしれないが、保育所の例を考えると、その多くが労働者には渡らない予感がする。

 

これは、最初から地方の事業者にばら撒く目的で作られた助成制度ではないのかと疑うのは、あまりに疑り深いだろうか?
なにより、首都圏から往復1万円の交通費がかかるほど離れた地方へ、副業や兼業が目的で訪れる人が、そうたくさんいるとは思えない点からも、この制度の目的ははっきりしない。
この謎なシステムの導入で、東京一極集中是正とか、地方経済の復興に対する政府の徹底したやる気のなさが、むしろよく伝わってくるのではないだろうか。

 

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