5月15日、衆・内閣委員会では、与党が強行採決する心積もりであった「検察庁法改正案」が、来週に見送られることとなった。
同時に野党(維新を除く)は、武田良太担当相の不信任決議案を提出、これにより与党は19日の衆院本会議で不信任案を否決した上で、21日に「検察庁法改正案」を衆院通過させようと見込んでいる。
反対する国民にとっては、騒ぎを大きくする時間的猶予を少し与えられたことになる。
この法案に対する世間の風当たりは、これまでに例がないほど強い。
先週からツイッターでは、著名な芸能人たちがこれに抗議意見を表明し、あちらこちらで話題になっている。
審議中は、コロナ禍のために議場の窓を開放しているせいで、国会前に集結したデモ隊の音が、視聴者にまで国会中継を通して聞こえてくる。
また15日、元検事総長を含めた検察官OBたちが、
「フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿」
という強烈な文言を含んだ意見書を法務省に提出した。
衆議院の公式サイトでは、視聴者が集中したことでアクセス過多になり、中継のサーバーが落ちるというトラブルまで発生した。
「ルイ14世」にばかり注目されていますが、この意見書の肝はジョン・ロックの「統治二論」です。なぜわざわざ岩波文庫と指定して訳者名を記しているか?
加藤節さんは、成蹊大学で安倍晋三に必修科目の政治学で不可を与えた方です。
ここに検察OBの本気の怒りと痛烈な皮肉が込められています。— クリプキ@先達 (@metaboodisan) 2020年5月15日
ルイ14世のくだりに関して、興味深いツイートがあったので添付。
引用にこれほどの意味があったとは、意外だった。
そんな多くの人の耳目を集める中で、NHKテレビ中継が入ることもなく審議は行われた。
注目すべきは、森まさこ法務大臣が登場してからだろう。
前日の審議では、内閣委員会ということで「法案詰め合わせ」の担当大臣として答弁していた武田大臣が、「内閣が定年延長が必要」と判断する基準について聞かれ、「それはない」と答えたところで野党が審議拒否をして、散会となった。
今日はそれを森法務大臣の口から説明いただこう、となるわけだが・・。
結果を言うと、全く答えられなかった。
意外ではない。
14日の夜、インターネット配信に登場した立憲の安住国対委員長は、番組内でこう語っていた。
14日に全く考えてもいなかった「基準」が、翌日の審議で森大臣から語られたところで、そんなものは一晩で作り上げた付け焼刃に過ぎない、と自信を見せていた。
実際、審議が始まると本当にその通りで、森大臣の答弁は「新たな人事院規則が作られるので、それに準じて基準を考えたい」というものであった。
つまり、採決前に「基準」について説明されることはない、という結論だった。
答が出ないまま野党の質疑時間は終わり、与党は休憩を挟んで採決に入る予定だったのだが、この審議中に、検察OBの意見書提出や国会前抗議、かつてない国会視聴者で衆院サイトがパンク、などという出来事が相次いだ。
そして、休憩中に野党が武田大臣の不信任決議案を出したことで、この日の採決は不可能となった。
圧倒的多数を持つ与党でも、「国民の多くが政治を見つめている」というプレッシャーというのは考えていた以上に相当なものなのだな、と改めて感じている。