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IT担当大臣の問題は、老齢だけではない

安倍内閣における閣僚ポストというものが、いかに「誰でもいい」かを実証するような組閣が出来上がったが、その中でもちょっと(悪い意味で)興味深い起用がある。

 

IT担当大臣に任命された竹本直一氏(78)だ。
初入閣である。
78歳という年齢と衆議院で当選8回という経緯を見るに、これまで入閣できなかったのはそれなりの「事情」があるからと考えざるを得ない。

 

前回の組閣では、当選7回という議員キャリアで、これまで大臣指名を「なぜ避けられていた?」という疑念の下に五輪担当大臣に任命されたのが、桜田義孝氏である。
大臣辞任まで、彼が日本全国に晒した教養のなさ、知識のなさ、口の軽さ、などなどの失態は、改めてみんなが、「なるほど、当選7回を経てなお、入閣のお呼びがかからなかったのは、そうしたワケがあったのか。」と深く納得するのに十分すぎる材料提供となった。

 

さて、この竹本氏78歳であるが、年齢的に見ても「IT?大丈夫?」という声がある。
桜田元五輪相(69)がサイバーテロの答弁をした時に、「USB」すら知らなかったという前例があるからだ。
自民党界隈では、利用しているSNSにスマホを使って自ら投稿するほどのレベルなので大丈夫、と言われているのだそう。
自分でSNSに投稿できると、ITの知識が深いとされる基準もどうかと思うが、実は私がここで触れたいのはこうした件ではない。
もっと大きな問題があるのだ。

 

こんなニュースを覚えているだろうか?
2019年5月に可決した「デジタルファースト法案」、それに関する閣議決定の直前に「印章業界団体」から横やりが入り、「法人登録の際の印鑑を略す」という趣旨の部分が法案から取り除かれた、という話だ。

 

この件は、3月に書かれた過去の記事で詳細に触れている。

「印鑑業界」ペーパーレス化を阻む意外な障壁
「印鑑」という言葉が、突然ツイッター界隈にあふれていた。 話を追ってみると、「デジタルファースト法案」という、さまざまな行政手続きをペーパーレス化することで効率を図りましょう、という政策の中で、 法人の登記に際して印鑑の義務化を...

 

そして、この竹本直一氏(78)こそが、「日本の印章制度・文化を守る議員連盟(はんこ議連)」の会長なのだ。
笑ってしまうではないか。

 

会見では「印鑑をデジタルで全部処理できないかという話があるが、印鑑を業とする人たちにとっては、死活問題だから待ってくれという話になっている」とも言及。「理屈では分かるが、即対応できない分野が結構ある」と述べ、議連会長としての立場を強くにじませる場面もあった。
(2019年9月13日朝日新聞)

 

そもそも「IT担当大臣」なる役職が、どういう政策と権限に関わるのか、詳細はよく分からない。
しかし、ペーパーレス行政にすらこのような横やりを入れ、早々にはんこ議連の会長を、よりにもよってIT担当大臣に押し込んでくるとは、ハンコ業界とはなんという強力なロビー活動をしているのだろう。

 

それと同時に、行政のペーパーレスやデジタル化は、これまで以上に世界に後れを取ることは必定であろう。
そして、ブロックチェーンなどの新技術を使えば、地面師のような古典的な不動産詐欺も淘汰されるのだが、「ハンコ」にこだわる限り、そうした先進技術の導入はまだまだずっと先のことになりそうだ。

 

また、ハンコにまつわる弊害は、デジタル化ばかりではない。

 

スイスのジュネーブで開かれているワシントン条約締約国会議は27日、アフリカゾウの象牙の国内市場がある日本などに対し、密猟や違法取引をなくす対策の実施状況の報告を求めることを全体会議で決めた。ケニアなどが求めていた「国内市場の完全閉鎖」は見送られた。
(2019年8月28日朝日新聞)

 

新興国の中国ですら(と言っては、失礼かもしれないが)、国内市場はすでに閉鎖し需要削減に取り組んでいるのに対し、日本は水際の摘発だけで、国内の流通は野放し状態だ。
これを国際会議の場で国内市場閉鎖するよう世界中から求められても、日本は「NO」と突き返しているのが現状なのだ。
国際的に「程度が低い」と言われても仕方のない話だ。
この頑なまでの日本政府の態度の背後にも、おそらくハンコ団体がいるものと思われる。

 

とにかく、どこから見てもいいことがないのだ。
このハンコ文化には。

 

IT担当大臣の任命は、ただ老人だということだけが問題なのではなく、こうした文脈が背景にあることを知っておく必要がある。

 

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