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「印鑑業界」ペーパーレス化を阻む意外な障壁

「印鑑」という言葉が、突然ツイッター界隈にあふれていた。

話を追ってみると、「デジタルファースト法案」という、さまざまな行政手続きをペーパーレス化することで効率を図りましょう、という政策の中で、

法人の登記に際して印鑑の義務化をなくす

というこの条項が、商業登記法改正が含まれていたことが震源のようだ。
この「デジタルファースト」は、来年にも施行・運営されるというのが、当初の計画だった。

これによって「はんこ」が不要になるという流れは、2018年からすでに、いろいろな形で話題になっていた。

さて、そしてこの度、この「法人の登記に際して印鑑の義務化をなくす」ことを盛り込んだ法案が、今国会で提出されないことが明らかになったのだ。

政府は否定しているが、その背景には、はんこ業界団体の「物言い」が影響しているという。
その「業界団体」が出した声明というのが、

「デジタル・ガバメント実行計画」に関する要望書

だ。

短い文書だが、この2ページ目に、結構な破壊力のくだりがある。

ツッコミどころはまず、

「欧米のサインと違い、代理決済できるという印章の特長が、迅速な意思決定や決裁に繋がり、戦後日本の急速な発展にも寄与してきたという自負もあります。」

「代理決済」がはんこのセールスポイントという主張だ。

「いろんな人が代わって決裁できる、この便利さよ!」

と言ってるわけだ。

財務省の公文書改竄が起きるほど公正性を失った社会で、「代わって決裁」をセールスポイントと考えているとは、ちょっとどうかしている。

また、先ごろ話題になった「地面師」が絡む詐欺事件も、3Dプリンター等の発達で偽造しやすくなった印鑑の泣き所が、事件に一役買っていると言わざるを得ない。

文書はさらに「要望」として、

上記(印章届け出義務の廃止の要望等)が実施されなかった際に、印章業界が被る被害に対する国の売り上げ補償

ちなみに、「売り上げ補償」のアンダーラインは、オリジナルにもついている。
なかなかに遠慮のない態度だ。

文書内には、
「変化を拒み、市場の変化を見誤ったことが原因ではありません。」
とも、記しているが、本当にそうだろうか?

印章の小売店舗は、文書によれば、全国に10500店舗あるという。
セブンイレブンでも全国に2万店舗というのだから、印章のようなニッチな商売としては、かなりの店舗数だ。

しかし、そのネットワークや顧客情報を使って、新しい「本人確認」のデジタル開発などに取り組まなかったのだろうか?

インターネットの発達で、廃れてしまった業界というのは、これまでにもいくつもある。
それをいちいち「売り上げ補償」などをしてはいられない。

ただ、それで失業してしまったり、生活が危うくなる人というのは、確かに存在するだろう。
そういう人のためにも、セーフティネットや社会的な支援があるのではないだろうか。
「企業・事業所の経営を守る」というのは、非現実的だ。

そもそも、「はんこ」というモノが、紙がないと成り立たない商品であることが致命的だ。
この産業を守る為に、国がデジタル化やブロックチェーン化をあきらめるというのは、あまりに割に合わない話だとは思う。

逆に言えば、「朱肉を使うはんこ」というものを温存するのなら、それはデジタル化を諦めることと、引き換えになるのではないだろうか。

 

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