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枝野氏から、ようやく出てきた「新たな社会観」

ここに朝日新聞の記事がある。

 

次の首相見据え?枝野氏、首相と「コロナ後」で論戦
立憲民主党の枝野幸男代表は9日の衆院予算委員会で、自身が先月発表した政権構想をもとに、「ポストコロナ」の政治のあり方について安倍晋三首相に論戦を挑んだ。
・・・中略
補正予算の審議で、政権構想をぶつけた枝野氏に「唐突だった」(立憲幹部)という指摘もある。ただ、首相と野党党首が直接対決する党首討論は今国会では一度も開かれていない。立憲の政党支持率も伸び悩む中、枝野氏には野党第1党の党首として、政権構想をアピールする狙いがあったとみられる。
(2020年6月9日朝日新聞)

 

「次の首相見据え?」とか、匿名で「唐突だった」という感想とか、「政権構想をアピールする狙い」とか、なんだかいやらしい角度からの感想が各所に散りばめてある。
この記者の書き方には、なにか悪意を感じる。

 

私がこの質疑を聞いたとき、「おっ!やっと言ったな。」と膝を打った。
これまで「対案」の呪いに悩まされてきた野党だが、はじめてどういう方向に国を持っていきたいのか、野党第一党の党首から明確なビジョンを示された質疑だったと思う。
少々長いが、通して理解すれば、朝日新聞の記事とはだいぶ印象が異なることは請け合いだ。

 

枝野幸男氏「この危機によって明らかになった現実を直視するべきだと思っている。1つはこの間、目先の効率性や自己責任が強調され、競争ばかりが煽られてきたいわゆる新自由主義的社会が脆弱であることが、明らかになったと思っている。世界最高と言われていた日本の医療が、感染者の急増で崩壊寸前まで追い込まれた。多くの医療機関が現時点で深刻な経営危機に瀕している。人口当たりのPCR検査数も他国と比べて決して多くない。この間、医療も効率化の例外ではなく、医療機関の統廃合や病床数の抑制などが進められてきた。その弊害が、今回如実に表れている。医療だけではなく介護や保育、障がい者福祉、放課後児童クラブなど、生活に不可欠なケアサービス、これが感染症危機の下で大変厳しい状況に追い込まれた。関係者の献身的な、そして使命感に頼ってようやく維持されているという現場が山ほどあります。これらは、需要増大に応じたサービス供給体制の整備が後回しになり、特にそこで働いている皆さんの賃金、労働受験が低く抑えられてきた、その結果、従来からサービス不足、人手不足が言われてきた、そこが危機の時一番弱い脆弱さが現れている。目の前の危機を乗り切るためにも、ポストコロナ社会に、安心できる社会を作り上げるためにも、一つには医療供給体制を減らしてきた流れを、明確に転換する、その方針を明らかにすべきだと私は思う。また、看護師や保育、介護、障害福祉、放課後児童クラブなどに従事する方々の労働条件や賃金を引き上げるという明確な方針を、今明確に示すべきだと思います。」

 

ここまでは福祉サービスについて。

 

「二つ目に、非正規雇用など不安定な働き方が増えたことで、雇用調整助成金などによる雇用の維持が十分に機能していない。最低限の暮らしを営むという意味で、極めて脆弱な社会になっていることは明らかになった。しかも厚労省の国民生活調査だとこの10年で、貯蓄ゼロ所帯は10.5%から15.7%へと急増した。貯蓄ゼロですから、仕事を失ったら直ちに食べられなくなる。住まいを失うことにもつながる。さらには効率化を求めて進んできた一極集中や国際分業、大きな弱点をはらんでいることが明らかになった。年の過密は明らかに感染症には脆弱だ。マスクや防護服など、国際分業の行き過ぎで、一時的とはいえ必要物資の不足を招いた。多くの皆さんが不安を抱いている。これまでのところ幸いなことに、食料とエネルギーについての混乱はまだ生じていないが、もし今後途上国などを中心に感染拡大が続いた場合には、世界的な食糧不足の恐れが生じると危惧している。過度な国際分業と、都市一極集中の弱点が明らかになった中、速やかに、目先の効率性に左右されない一次産業、農村漁村政策の転換が求められていますが、いかがでしょうか。」

 

ここまでは、産業のあり方について。

 

「小さすぎる行政の脆弱さが明らかになった。官から民へ、民間でできることは民間で、こういうスローガン委振り回され、危機に対応できない小さすぎる行政になっている。現場は少ない人員で頑張ってきたが、保健所を減らし職員を減らしすぎてきた結果として、PCR検査に至るプロセスに目詰まりが生じたのではないか。自治体職員を減らし、非正規化を進めてきたにもかかわらず、この定額給付金10万円の手続きを自治体に丸投げし、現場を疲弊させ、手続きの遅れを招いてきたのではないだろうか。縦割り行政の中で、自前では処理できない業務であるにもかかわらず、既存の態勢で進めようと、つまり自分の省内で処理しようとするから、外部に丸投げをし、混乱を招いた持続化給付金の問題が生じたのではないか。感染者情報はつい最近までFAXでの報告が求められていた。オンラインで感染者情報を集約するシステムの構築に手を付けたのは5月に入ってからだ。いまだに十分に機能しているという話は聞かない。定額給付金ではマイナンバーが役に立たないどころか、自治体の事務処理に混乱をもたらした。雇用調整助成金に至っては、オンライン申請を始めたのはいいけども、初日にバグって機能が停止し、いまだに回復できていない。公務員を減らせば改革だという30年前の時代遅れの発想を続けてきたこと、これがいま、さまざまなところで問題を噴出させている。必要なのは公務員の数を減らすのではなく、適切な部局間の連携支援を行って、そして電子化も、国民に何かをもとめるのではなくて、行政の内部におけるオンラインや電子化、これ子をが必要なのではないか。」

 

ここまでは、公務員を減らしすぎたことがもたらした弊害について。

 

「感染症危機の中で、自己責任とか、目先の効率性を強調していたのでは、自分や大切な人の命は守れない。これが明らかになった。自分以外のすべての人に協力してもらわないと、感染拡大は止まらず、結果的に自分たちの命も守れない。同時に自分の感染リスクを少しでも小さくしようと行動することは、自分のためだけではなく、社会全体の感染拡大を防ぎ、他のすべての人の命を守ることに繋がる。社会はこうした互いの支え合いによって成り立っていることを、私たちは再確認すべきである。その上で大切なことは、支え合いのために生じるリスクとコストが、著しく偏っていることだ。リモートワークでステイホームが可能な方がいる一方で、最も高いリスクの中で尽力いただいている医療従事者などを念頭に、ケアサービス、物流、運送、客輸送など、或いは警察などを先頭に多くの公務労働、リスクがあっても欠かすことが出来ない業務に従事する人がいて、社会は成り立っている。多くの人が減収となっているが、それでもこの中で、実は増収になっている方も一部にはいます。一方で観光産業や飲食関連、文化芸術など影響が長期にわたり、負担も人によって大きく違う。このリスクやコストを平準化すること、つまり再分配することこそが、政治の最大の役割。本来私は平時から、再分配、リスクやコストを平準化することが政治の最大の役割であると思っているし、それが出来るのは政治だけだ。」

 

・・というのが、枝野氏の主張全文になる。
これを安倍首相に「どう思うか?」と、ぶつけたわけだが、まぁアベには無理だ。
実際、答弁な中身はいつものように虚ろなものだった。

 

この枝野氏の演説は、コロナ禍を通して、これまでの安倍政権がどれだけ社会を脆弱にしてきたかという証明と、それを取り返すには何が必要かという明確な提示であったと思う。
世界の価値観が変わると言われているアフターコロナの時代について、政治家任せではなく、一人一人が暮らしていく方向性を考えなければならない局面に来ている。
その時、この枝野氏の示す方向性は、より暮らしやすい日本にするために、大いに参考になるのではないか。

 

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