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台風19号被害の千葉県南部で起きる人口流出

2019年もあと数日という年の瀬に、とある地味なニュースが気になって仕方がない。
今年台風に襲われた、千葉県房総半島の被災地だ。

 

台風15号は、8月30日にやってきた。
台風の目が、陸地を避けながら、狭い東京湾に入り込み千葉市から上陸するという、とても珍しい進路を取った台風だった。
雨はもとより特に風がひどく、結果的に台風の目が急接近した、神奈川県の港湾部と千葉県の房総半島の先端地域が甚大な被害を受けた。
千葉県のゴルフ場のネットが倒壊して、多くの住宅を押し潰した台風、と言えば「ああ、あれか」と思う人も多いだろう。

 

2019年に、同じく台風で被害を受けた地域には、7月の熊本県、10月の長野県や福島県もあり、こちらも甚大な被害が出ているのだが、なぜか千葉県のみに関して、手つかずになっている状況が報じられ始めている。
政治で救われることもなく、住民には自己努力において復興する十分な力もなく、地域の共助にも限界があるという、災害とともに衰退していく地方の見本のような存在になりつつあるところが、全国に対しての警告のようにも感じられる。

 

国や県などの行政が、こういう大きな災害で被害を受けた個人に対して補助金などの経済的援助をするのは、当たり前のことだ。
しかし、だからと言って、それさえあればオーライという話でもないようだ。

 

台風15号、壊れたままの被災住宅 千葉南部、業者不足
9月の台風15号の暴風雨で被害が集中した千葉県南部の館山市、南房総市、鋸南町で、壊れた住宅の修理費の補助申請が計約5500件あった一方で、支給は計32件にとどまっていることが3市町への取材でわかった。業者不足で修理ができないためで、多くの住民がブルーシートの屋根の下で年を越すことになる。
(2019年12月28日朝日新聞)

 

上の記事で、「申請件数」に対して「支給件数」が極端に少ないのは、この補助金が「工事終了後」に支給される仕組みによるものである。
その「申請件数」と「支給件数」の内訳を見ると、次のようになる。

 

館山市  約3000件(30)
南房総市 約2200件(2)
鋸南町  約 320件(0)
(23日現在・朝日新聞調べ)

カッコ内の数字が支給件数だ。

 

館山市の担当者は「(業者不足で)工事が終わらず支給できない。まだ多くの家がブルーシートに覆われている」と話す。
全国36都道府県と災害協定を結ぶ全国木造建設事業協会によると、昨年7月の西日本豪雨以降、各地で災害が相次ぎ、慢性的に業者が不足しているという。協会は「千葉は台風が連続し、さらに手薄になっている」と話す。また、後継ぎ不足で廃業する瓦職人も相次ぎ、瓦の製造が間に合っていないという。
(2019年12月28日朝日新聞)

 

しかし、本当にそれだけだろうか?

いくら職人不足と言っても、数か月以上過ぎて工事終了がたったの「2件」とは、あまりに少ない。

 

私事で恐縮だが、実は私の実家は千葉県市川市にある。
房総の被災地からはかなり遠く、東京都との境界線をもつ首都圏に近い地域だが、ここにある実家の屋根瓦数枚が、同じ台風の風で吹き飛ばされた。
飛んだのは数枚の瓦でも、高度成長期に建てられた古い木造戸建ての屋根瓦の代品なんぞ、すでに市場にあるはずもなく、全取り換えを余儀なくされた。
最も安価な屋根素材を導入するも、最終的な総工費は70万円ほどになった。
幸い両親は、住宅の災害保険に加入していたので全額個人負担は避けられたものの、それでも最終的な持ち出しは約30万円ほどになった。
これは、年金暮らしの老人にとっては、大変な負担である。

 

話が遠回りしたが、言いたいことはこうである。
瓦が数枚飛んだだけ、という被害の超軽いケースでも、持ち出し30万円が必要だということだ。
房総半島の地域での被害はこんなものではなく、屋根の大部分が吹っ飛んで、壁にも穴が開いたなどというケースが多く、悪いことに、その後続いた他の台風などの影響で、大雨が家の中に吹き込み、その影響で屋内がカビだらけになっているケースが非常に多い。
こうなると、個人負担は30万円では、到底済まない。

 

補助金を申請した人が2200人もいるのに、それを受けた人が2人しかいない主な原因は、決して工事の職人不足ではなく、見積もって補助金申請をしたものの、二つの金額がの差が大きすぎて工事そのものを断念したケースが多いのではないだろうか。

 

千葉県館山市の富崎地区で地元のNPOが調査を行ったところ、およそ400世帯のうち、4分の1の住民と連絡が取れない状態になっていることが分かりました。
住宅の修理が進まないなか、移転に踏み切った人も少なくないとみられています。
(2019年12月27日NHK)

 

館山市では、このように住民の転出が報じられている。
たまたまNPOの調査があった館山市の一部地域について報じられているが、おそらく南房総市の方がもっと深刻なのではないだろうか。
それは、家の修理を終えた件数が2件しかないことからも窺える。

 

実は、「南房総市」というのは、平成の大合併で7つもの町村が合併して出来上がった新しい自治体である。
房総半島の最先端に位置する館山市をくるむように、三日月型をした面積の広い自治体だ。
こうした事情から考えても、南房総市というのは抱える面積や人口に見合った行政の規模やネットワークが、あまり充実していないのではないかと想像される。
これも、平成の悪しき置き土産と言えるかもしれない。

 

同じような事情を抱えているが、幸いにもまだ深刻な災害が起きていない地域というのは、おそらく日本中にたくさんあるだろう。
同様の地域で同様の災害が起きれば、それは補助金を出して経済的に「部分援助」するだけでは到底足りない例が、これからも日本の各地で増えるに違いない。
私たちは、房総半島で起きていることをきちんと知り、今後も人口減少をたどる日本で、こうした地域にどう対応していくのか新しいアイディアをひねり出す必要がある。
これは、都市計画とも言える、日本の社会が苦手としていた分野であるが、待ったがかけられないところまで来ていると思う。

 

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