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「イートイン脱税」という造語に不快を覚える件

ご存知の方も多いと思うが、ドイツにも軽減税率がある。
が、「お持ち帰りと、店で飲食するのでは、課税率が違うって知ってる?」
と、回りにこう質問したら、「えっ、そうなの?」と答える人が、たぶん少なくない。
(調査したわけではないので体感だが)

 

日本で問題になっている、イートインと持ち帰りで生じる2%分が、なぜかドイツではあまり気にされることがない。
ドイツの消費税(正確には付加価値税だが、消費者目線ではほぼ同じ性格なので分かりやすくこう表現する)は、19%となかなかに高い。
一方、食料品、生活必需品とされるものに適用されている軽減税率は7%。(2019年現在)
「日本よりも低い!」と驚かれる方もいるだろう。
消費税率と軽減税率のパーセンテージの差が、なんと12ポイントもあるのだ。
具体的な価格を挿入して考えてみよう。

 

例えば、本体1000円の食品を、イートインで食せば1190円、持ち帰りなら1070円。
実に120円もの差がついている。
しかし、会計で「持ち帰りなんだから12ポイント分の税金を返せ」などと駄々をこねている人を、一度も見かけたことはない。
なぜドイツの人々は、この差額に目くじらを立てないのだろうか?

 

それは「内税」による効果が大きい。
ドイツでは、一般の小売では消費税が内税表記になっている。
飲食店でも、大手ファストフードから横町の個人経営ピッツァリアまで、表示価格は内税で、持ち帰りと店内飲食の価格を区別して表示している店は存在しない。
持って帰ろうが、その場でいただこうが、事実上代金は同じというのが、消費者感覚なのだ。

 

では、店の会計上はどうなっているのか?
個人経営の店がどうしているかは知るすべがないが、マクドナルドのような大企業のチェーン店での扱いを調べていたら、ネットでこんな記事を見つけた。

「テイクアウトはマクドナルドを儲けさせる」(原文ドイツ語・筆者訳)

記事の説明ではこうだ。
表示されている商品価格には、一律19%がすでに加算されていて、持ち帰りだった場合はマクドナルドが19%のうち、7%分だけを当局に納税すればいい。
なるほど、19%と7%の差額12ポイント分は、マクドナルドが売り上げとして計上できるため、先述のような表現になるらしい。

 

実は同じ方法を取っている企業が、日本にもある。

 

すき家 牛丼並盛り「店内」「持ち帰り」税込み同一価格に 発表
「店内飲食」の場合、本体価格の325円を6円値下げして319円にすることを発表しました。
これによって10%の消費税を加えても税込み価格を350円
(2019年9月3日NHK)

 

6円とはいえ、値下げで対応しているところが大きく違うが。
それでも、値下げという手段が取れるのは、大手の余力なのかもしれない。
しかし同時に、有名店でありながらも、わずか10円程度の値上げすらできないという、景気事情も窺える。
こんな時に消費税率を上げたのは、やはり大きな失敗だろう。

 

前置きが長くなったが、この記事で紹介したいのは「イートイン脱税」という言葉だ。

 

“イートイン脱税” 後絶たず 座席撤去など店が対応
持ち帰りと店内飲食、それぞれの商品を提供する飲食店では、持ち帰り用として購入したものを店内で飲食することで2%分の消費税を免れる、いわゆる “イートイン脱税” への対応を迫られています。
(2019年11月2日NHK)

 

NHK以外にも産経系列のメディアが、この言葉を使っている。
この造語に、ものすごい不快感を覚えるのは、私だけであろうか。

 

そもそも、「消費税を申告、納税」するのは、事業者であって、消費者ではない。
消費者が店頭で「脱税」すること自体が、法解釈では不可能である、と筆者は考えるのだが、どうだろうか。
それをNHKまでがカッコ付きでこんな造語を使うのは、市民に誤解を与えるのではないかと思う。

 

では、この行為でいったい誰が損をするのだろうか?
店側は、レジで「持ち帰り」「店内」と登録して売り上げを立てるわけでから、申告時はそのレジの記録によって納税額が決まるはずだ。
それなら、事業者側が「イートイン脱税」分を負担することはない。
だったら、NHKの報道のように、なぜ事業者は「対応を迫られる」のだろうか。

 

要するに、客同士の「あ、あの人ずるい」という反感対策なのだ。
なんてくだらないのだろう。
ズルをして得をしたといっても、1000円分の商品でせいぜい20円の話だ。
イートインの場合、それより少額であるのが通常だろう。
そんな金額を巡って、客同士が「あの人は10%払っただろうか」と疑心暗鬼に監視しあって、時には店に苦情を言う。
ちょっと狂ってるとしか思えない。

 

また、そういう行為に「イートイン脱税」などと命名して報じるマスコミは、その荒んだ市民の感情をさらに荒立てることにはならないか。
マスコミには、こういう言葉の使い方には一層慎重になってもらいたい。
広く、誤解と対立を深める結果になりうるのだから。

 

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