ネットで話題になっている「結婚新生活支援事業」の新枠組。
今回は、スガ政権が目玉にしている少子化対策をねちっこく検証してみる。
まずは第一報の報道から。
内閣府は20日、少子化対策の一環として、新婚世帯の家賃や敷金・礼金、引っ越し代など新生活にかかる費用について、来年度から60万円を上限に補助する方針を固めた。現行額から倍増し、対象年齢や年収条件を緩和する。経済的理由で結婚を諦めることがないよう後押しする狙い。
具体的にどう緩和されるのかというのは、下の図を見ると理解しやすい。
(2020年9月21日TBS)
なにか景気のいい話に聞こえる。
こういう政策は、対象から外れている大多数の人たちには「やってる感」をアピールするのに効果的だ。
なぜなら対象外の人たちは、その制度を詳しくチェックすることもなく、新聞記事の上っ面だけ読んで「なるほど、政府は少子化対策をやってるんだな」と誤解することがよくあるからだ。
今回は、この政策がどれほど少子化対策に貢献すると見込まれるのか、検証しようと思う。
「結婚新生活支援事業」という制度そのものは、何年も前から基準などを少しずつ変更しながら存在している。
管轄しているのは・・・
地域少子化対策重点推進交付金(結婚新生活支援事業)担当
2019年度の予算は約3.5億円である。
参照 内閣府子ども・子育て本部 令和2年度歳出概算要求書 リンク
報道では、少子化対策で「予算倍増」とあるので、これを約7億円にするということだろう。
その上で、対象年齢や収入制限のハードルを多少低くした。
ではこの7億円の少子化政策はいったいどれほどの効果があるのか。
結婚・出産にまつわるデータを見てみよう。
(内閣府・少子化社会対策白書)
2019年に微妙に増えたのは、令和への元号改変による効果らしい。
とは言え、2000年ごろをピークに右肩下がりで落ちている。
現在では60万件を通り過ぎてさらに落ちていく過程にあると言えるが、では7億円という予算だと最大何世帯が救われるのか。
実はこの補助金は、給付の半分を自治体が負担することになっている。
共産党・宮本徹議員によれば、「7月10日現在で281市町村で、全自治体の15%程度です。」ということだ。
つまり、ほとんどの人のお住いの自治体では導入されていないので、補助を受けるチャンスがそもそもない。
また、補助金の最大額が60万円ということなので、国の支出がその半分とすると7億円の予算で救えるのは、フルに使ってもたったの2333件だ。
こういうのを焼け石に水というのではないだろうか。
上は、内閣府サイトで公表している結婚新生活支援事業(概要)というものだが、「結婚を希望する人に対して、行政に実施してほしい取組」のトップは「安定した雇用機会の提供」である。
これはもっともな結果だ。
日本政府が本気で少子化に取り組むのなら、ここに取り組むべきなのではないか。
3番目の要望をピックアップして、取り組んでいるフリをするのはあまりにあざとい。
また、この補助金の使い道は、新居の購入費、または新居の家賃、敷金・礼金、共益費、仲介手数料、引越費用に限られている。
つまり新居のスタートアップ費用の一部を援助するのに過ぎない。
これで年収540万円未満の世帯に「さあ、余裕が出来ただろう。子供を生め。」というのは、あんまりではないか。
(もちろんそれでも子供を持つ人はいるが)
当たり前だが子どもというのは産めば終わりではない。
その後の長い子育てが待っているのだ。
それでは現在の少子化はどんな状況にあるのか。
過去の報道から引用する。
(2020年6月5日毎日新聞)
19年度の統計発表が出る半年前、実はこんな報道があった。
(2019年12月6日共同通信)
有り体に言えば、安倍政権下で少子化は加速したのだ。
2017年9月28日に安倍政権は「国難解散」をし、「急速に進む少子高齢化を克服」と訴えた。
その後、少子化は加速したのだ。
こんなバカバカしい話はあるだろうか?
国民のどれほどの人がこのストーリーを覚えているだろうか。
安倍政権を受け継いだ菅政権は、9月16日に初閣議で基本方針を決定した。
その中に少子化対策は一応ある。
そこで謳われているのは、「不妊治療への保険適用を実現」である。
この制度自体は歓迎だし、むしろ遅いくらいだが、果たしてこれがマクロで見た「少子化対策」にどれほど貢献するのかは甚だ疑問である。
新しく始まったスガ政権。
私たちは安倍政権でやられたような目先の「やってる感」に騙されることなく、政策の中身に意味があるかどうか、きちんとその都度吟味しなければならない。