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道徳教科書が示す「権利と義務」

前回の「武士道をつらぬいた、強くて優しくてかっこいいサムライ」の件を取り上げた後も、道徳教科書を読み続けているが、ツッコミどころが多すぎて、ちょっとこのテーマから離れられそうにない。

どうしよう。

このままだと「道徳教科書にツッコミを入れるブログ」になってしまうかもしれない。が、気になるものは気になるので、第二弾を書こうと思う。
第一弾はこちら。

道徳とサムライと安倍晋三
私はドイツに住んでいるけれど、日本国籍を保有する子供が二人いるので、ドイツの学校に通っていても、申請すれば義務教育の間は日本の教科書を無料で受け取ることが出来る。 そんな制度を使って、小1から日本の全教科の教科書を受け取っているが、最近私...

今回紹介するのは、東京書籍の「新しい道徳1」という教科書から。
中学1年生向けだ。

題は、「権利と義務を考えて」

カンのいい人は、すでにイヤな予感がしているに違いない。

例によって、短いお話を読んで「考え・話し合う」形式の課題なので、そのテキストの「あらすじ」を紹介する。
といっても、原文も挿絵入りで3ページという、いたって短いお話だ。

体育祭のクラス対抗リレーの選手を選ぶ学級活動の時間。
クラス全員に投票用紙を配り、それぞれが思い思いの名を書いて、得票数で選手を選ぶ。
結果は、予想通り、小学時代から俊足で名が通っているA君がトップ当選した。
選挙が終わったところで、A君が「やりたくない」と言い出す。
ここでクラスのみんなから、A君は強い語調で責められる。
実は、A君は学期末試験の結果が悪かったので、今学期は勉強に専念すると決心し、英語塾にも通いはじめたところだった。
そういうわけで、放課後の練習もあるリレー選手には、なりたくなかったのだ。

ここまで読んで、
「じゃ、やんなきゃいいじゃん。クラスのみんなも、あきらめて他を当たりなよ。」
と思う私はヘンなのだろうか?

これは「ジレンマ」でもなんでもなく、「そりゃ残念」でクローズする案件以外のなにものでもないと思うのだが。

しかし、A君にはクラスのみんなから、なんとも理不尽な言いがかりをつけられる。
ここは、引用で紹介したい。

いったん選挙で選ばれた以上、クラス全員の代表として出場する義務がある。自分の都合で出るのがいやだと勝手なことを言ったって、そんなことは許されない。出ないということはA君のエゴではないか。勉強は個人のことで、体育祭はみんなの行事だ。個人のことがだいじか、クラス全体のことがだいじか、どっちなんだ。

ヤベエよ、なんだよこのクラス。
自分の成績がだいじに決まってるじゃんかよ。
「許されない」とか言ってるが、いったい誰が「許さない」んだよ。
エゴイズムというのは、「他人の不利益を省みない」利己主義のことを言うが、A君がリレーに出ないと、「クラスのみんな」はどんな不利益を被るというのだろう。
選手になって勉強の時間が減れば、「また成績が落ちる」というA君の不利益のほうが、どう見ても圧倒的だ。

言ってることが、いちいち理にかなってない。
まぁ、中学生だからしょうがないという話なのか。

ここでA君も黙ってない。
こう言い返す。

クラスのことがだいじでないとは言ってない。しかし、選手になったときの自分の勉強のおくれはどうなる?それに、勝手にぼくを選んでおいて、選ばれたから出ろというのは、一種の暴力ではないか。もっと個人の気持ちも尊重してほしい。

中学生に、「一種の暴力」とか「尊重」とかいう言葉を無理に使わせてる違和感はさておき。
もっともな言い分だ。
クラス全員を相手に回し、ここまで己の考えをはっきり述べられるA君は、中学生ながら見上げた度胸と感服する。

「A君のエゴか、学級の暴力か、議論は結論の出ないまま時間切れとなった。」
という言葉で、短い物語は締められる。

そしてこの物語を踏まえて、考える課題が、こちら。

《集団生活の中で、権利か義務のどちらがだいじか、悩んだり困ったりしたことはあるか。》

そもそもこの物語から、「権利」と「義務」を抽出することに無理がある。

A君が選ばれたのだから、選手になる「義務」があるとか言ってるクラスメートは、中学生レベルの浅い知識で屁理屈をこねているにすぎず、A君にはそんな「義務」はない。
なぜ、ここでこんな設問が出てくるのか、理解に苦しむ。

では出題者の立場に立って、話の流れから「正しそうな答」を忖度してみよう。
A君が「選手になる義務」と「断る権利」を天秤にかける、というあたりの考え方が模範的なのだろうか。

しかしそういう「模範的な」考え方を無理にすると、「権利を主張することが、集団生活のイベントに水を差す」という後味の悪さだけが残る。
まさか「後味の悪さ」を感じさせることこそが、キモなのか?

もしそうだとしたら、教育としてやり方があまりにえげつない。

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