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岸田政権「新しい資本主義」に鋭いツッコみ

2021年12月14日、衆予算委 落合貴之議員の経済政策に関する質疑が秀逸だったのでまとめておく。
なお、引用は忠実な書き起こし文ではなく、理解しやすいようにところどころ言い回しを変えるなどしている。

 

岸田首相の新しい資本主義、その中の「株主資本主義からの脱却」の象徴的な施策として

 

落合議員上場企業の四半期決算開示の義務化を見直すと言及されてきた。就任された10月の所信にはしっかり書かれていたが、今回の11月には書かれていない。取り下げたのか?やるのか、やらないのか?」
岸田首相「(意訳)現実的には、義務化見直しは、中長期的な視点に基づいて物事を考えて頂くという点において、意義のある課題だと認識をしている一方で、業績の進捗を確認するうえで必要だという意見もある。市場への影響を見極めつつ丁寧に検討しているというところ。」

 

〇〇である一方、〇〇という意見もあるので丁寧に検討したい。(結果、何もしない)
今国会であらわになった、典型的な岸田答弁だ。
あっちの話を聞き、こっちの話を聞き、「どちらも意義がありますね~丁寧に検討しましょう」となにもしないのが岸田首相の特徴だ。
「THE 聞く力」である。

 

「業績の進捗を確認するうえで必要」なのであれば、開示義務ではなく社内でやればいいだけだ。

 

落合議員「アベノミクスで企業収益は最大になりました。GDPはそれなりに上がりました。(期間統計改ざんが問題になっている最中ではあるが)それでも賃金が上がらない、個人消費も下がってしまう。これでは、どんな政策をずっとやっても国民の懐が豊かになることはない。いくらGDPを上げても、財政出動をしても、国民の懐が豊かにならなければ意味がない。」

 

つまり、賃金が上がらない理由は、企業の利益や業績とは別のところにあると指摘している。

 

 

落合議員「なぜ賃金が上がらないのか?紫のライン、四半世紀で107%、7ポイントくらいしか日本企業の全体の売り上げ高は増えていない。しかし赤のライン、経常利益は3倍以上に増えている。なぜか?設備投資と従業員の平均給与は、四半世紀前より低い。なぜそこまでして利益を上げたのか?配当金は6倍に増えた。企業収益を上げて配当を出させる、これは四半世紀この国がやってきた施策なんです。そもそも政府がROE(自己資本利益率)経営を推奨して、『一株当たりの利益率を上げてください、それがいい企業だ』と言ってきた。」

 

なぜ、日本の経済は好調とされながら賃金には反映されなかったか、ズバリ答えが出た。

 

落合議員「中長期的な企業価値を上げるためには、短期決算も必要なのではないかと答弁されたが、中長期的な価値の向上というのが、中長期的に『株主に配当するための』企業の価値であって、従業員や産業競争力を意味しているわけでもないんです。会計上、配当できる、株価を上げられる価値を最優先してきたこれまでの日本の経済政策にこそ、メスを入れられなければならない。」

 

これに対する岸田首相の答弁は、両者とも立てるのは難しいから検討を続けていきたいという、毒にも薬にもならない答弁なので割愛する。
落合議員の指摘を引き続き引用するほうが、記録としてもよほど有意義だ

 

落合議員「「設備投資、開発投資をしなければ世界からどんどん取り残されていく。しかし、会計上、企業の収益を上げるために企業の産業競争力が犠牲にされてきた。大臣の所信にもあった『5Gで世界をリードする』、リードできる段階じゃない。韓国や中国よりも遅れてる。世界に追いつくことさえできていないのにどうやってリードするのか?」

 

落合議員四半期決算の短期主義は絶対やめるべき。世界で四半期決算を義務化しているのは、主要国では日本とアメリカだけ。90年代は世界の潮流で導入されたが、こういう弊害があることを受け欧州は6,7年前にやめた。これがグローバルスタンダードだと思っているのは日本だけ。」

 

落合議員「自社株買い。自社株買いをすることで、世に出回る株の数が減るので株価が上がる。これは投資家が求めていることです。かつて日本は禁止してきたが、それが小泉改革で解禁された。何のためかよくわからない。だが少なくとも外国の投資家はそれを求めていた。従業員が一生懸命働いて作った売り上げを、株価を上げるために使うのは問題。・・・本来なら投資家から資金を調達するのが株式市場であるのにもかかわらず、投資家「資金をあげる株式市場になってしまっている。早急に議論すべきだと思いますよ?」
鈴木財務大臣「略)さまざまな利害関係者に配慮しつつ、中長期的な企業価値の向上に取り組んでいくことが重要。」

 

「さまざまな利害関係者に配慮しつつ」だって。

 

落合議員「自社株買いをどうするかは『会社法』に書いてあるので、法務大臣が所管となる。多岐にわたっていて問題が見えにくくなっている。」
岸田首相「画一的に規制ではなく、個々の企業の事情、判断に応じたガイドラインならできるだろうか、とは思う」

 

落合議員「アメリカでさえ(自社株買い)制限のための議論が始まっている。日本が一番遅れてる。今の鈴木財務大臣の説明は、20年前に担当の人が主張していたような話。ものすごく時代遅れ。ちなみに『会社の判断』と言うが、それを判断するのは取締役。数年前に社外取締役を義務化した。これをしてるのもアメリカと日本だけ。社外取締役を義務化したら、その人たちはどこから来るのか?ファンドから送られてくるんですよ。株主還元のためにどんどん利益を吐き出せと言う取締役を増やすための法律を2年前に通しているんです。20年前の世界の潮流を今やっている時代遅れをもっと認識すべき。そのための株式資本主義からの脱却。」

 

勉強になる。

 

ここまでは金融事情からみた、賃金が上がらない理由。
ここからは雇用事情からみた、賃金が上がらない理由。

 

落合議員「非正規雇用の問題もさることながら、事態はさらに深刻化し、みなし個人事業主というのが流行っている。」

 

ギグワーカーとかいわれるやつだ。

 

落合議員「社員と同じように働いているのに、正社員でもない、非正規雇用でもない、業務委託料をもらった個人事業主が増えいている。建設、IT、配送業などに。こうなると最低賃金すら関係ない。労災もない、社会保険もない。非正規雇用よりも守られていない雇用がどんどん増えている。2年前くらいは300万人だったのが、今は462万人と急増中。働き方改革の旗を振ったことで、フリーランスという働き方も選択肢として出てきて、所得が上がる要素よりも、低い業務委託料で働く人たちが増えている。修正するべきでは?」
山際経産相「フリーランスの増加は承知している。その一方で多様な働き方を認めていく社会にしていく。・・・検討して前向きに進めていく。」

 

「その問題は承知している。一方でこういう意見もある。さまざまな意見を検討し、今後丁寧に対応していく。」
これ、岸田政権のひな型なのか?

 

多様な働き方」と政府が言い出した時は注意が必要だ。
これまで、そして今も政府が経団連の言いなりになって労働条件を改悪するときは、必ずこの言葉を使う。

 

落合議員「EUはギグワーカー保護法をすでに作った。総理のリーダーシップでやるべきでは?」

 

これに対して岸田首相ののらくら答弁。

 

12月14日、この日は臨時国会 衆院予算委の2日目であった。
マスコミでは、18歳以下への10万円給付をクーポンにするのか、現金にするのかで大いに盛り上がっていた。
予算委1日目の冒頭で「現金給付も可」と岸田首相が答弁したにも関わらず。
ニュースだけ見ていると、国会はクーポン問題一色の質疑であったかのような誤解すら受ける。
落合議員の約30分弱のこの質疑は、新しい岸田内閣の根幹である「新しい資本主義」の分配が不可能であることを鋭くえぐった。
岸田政権のメインである経済浮揚政策に問題の本質を投げかけるこの重要な質疑を取り上げたのは、日経や通信社のベタ記事程度だった。

 

「野党はモリカケばかり」
そうではない。
マスコミがそれしか報じないのだ。
そして今回の素晴らしい質疑も、あまり日の目を見ないということは大変残念だ。
せめてもの抵抗として、このブログにとどめておこうと思う。
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