日米貿易協定は、安倍首相によれば「ウィンウィン」なのだそうだ。
本当だろうか?
もし米国がTPPに入っていたら、安い農産品がたくさん入ってくる代わりに、自動車の関税も撤廃されたはずだ。
これが良いかどうかは別として、少なくとも米国込みのTPPではそういう段取りだった。
ところが、土壇場で米国中央がトランプ政権に変わってしまったために、突然の離脱を告げられ、米国との貿易はこれまで通りを貫くこととなった。
そのため、カナダやオーストラリアといった他のTPP加盟国から安い農産物が日本に入るようになり、米国の日本向け農産物輸出は低迷を続ける。
そこでトランプが持ち出したのが、日米の二国間貿易協定だ。
結果を言えば、農産物はTPP水準まで関税を下げることになった。
でも自動車に関しては、「そのうちに」という結果になったのが今回の協議だ。
「そのうちとおばけは出た試しがない」という、いい言葉が日本にはある。
さぁ、ここで考えてみよう。
TPPと日米二国間では、どちらが日本に有利だろうか?
言うまでもない。
TPPの方が、まだマシだったということだ。
日米二国間では、米国に美味しいところだけを取られて終わった。
とっても簡単な話なのだ。
「ウィンウィン」だなんて、とんでもない。
ところが政府の説明はそうはならない。
問題は、協定の関連文書である「付属書」というものだ。
この一文を以って、政府は「やったーやったー、関税撤廃だ」と喜びを演出している。
普通に解釈して、「続けて協議しましょう」という意はくみ取れるが、これを「関税撤廃の確約」と解釈するのは、ほとんど誤訳といえる域だ。
それについて、10月23日衆議院内閣委員会で立憲・今井議員が質問した。
曽根健孝外務省大臣官房参事官「・・・略)・・・関税の撤廃に関しては、さらに交渉する、と規定してございます。」
あれ、ふつうに訳してるじゃん。
曽根参事官「我々としては、この文言において、自動車同部品の関税撤廃を前提として交渉するという風に考えております。」
今井議員「それでは、この交渉によって関税は撤廃されるという、そういう決定でよろしいんですか?交渉によっては、この関税が撤廃されないという可能性はないですか?」
曽根参事官「(なんかよく分からない説明)」
「付属書」の別の項目で、米国は前向きに取り組まなければならない的なことが書いてあるから、米国が前向きに取りむけば、関税は撤廃されるはず、みたいなことをグダグダと説明する。
曽根参事官「我々としては関税撤廃を前提にして、具体的な撤廃への期間について交渉が行われるということでございます。」
今井議員「では、この交渉によって撤廃はされると断言できますか?」
曽根参事官「関税の撤廃がなされることを前提に、交渉を行うということでございます。」
今井議員「答えていただいてないので、もう一度聞きます。関税撤廃がなされると断定できますか?」
曽根参事官「我々は関税撤廃を前提として交渉ということでございます。」
国会名物、傷ついて針が飛ぶレコード答弁。
意味のない答弁のループ地獄。
今井議員ばかりでなく、聞いている国民も同時にバカにされていることを忘れちゃいけない。
曽根参事官「我々は関税の撤廃が前提ということでございますので、その前提として交渉を行うということでございます。」
だからー、確定できない話をなんで前提にするんだ、って聞いてんだよー。
この後、2度速記が止まるのだが、結局「関税は撤廃されると理解している」という、言い方を変えた答弁しか返ってこなかった。
そして内閣府は、恥ずかしげもなく、この取れるかどうかわからない関税撤廃を織り込んだ形で、「経済効果」なるペラ1枚の試算を発表する。
(2019年10月18日時事通信)
そのペラがこれ。→ 日米貿易協定の経済効果分析(暫定値)
「農林水産物の生産減少額:約600~1100億円」と、ネガティブな部分は米印で欄外に書いてあるところが笑わせる。
できるだけ読み手の目に触れないように書かれた、悪徳保険業者の約款のようだ。
表題は、(暫定値)ではなく(皮算用)と書くべきだし、「ウィンウィン」だって「ウィン(ウィン前提)」と書かなければおかしい。
あっちのウィンは確定したが、こっちのウィンはお預けなのだ。
安倍政権の交渉が、まるでうまくいったかのように装う、それだけのために官僚までが総力を挙げて、不実な答弁をし、国民を騙し、ごまかしながら「ウソの成果」を喧伝する。
さらりとニュースを見て、なんとなく「日米貿易交渉は、まあまあうまくいった」などと思っている人は、世の中に少なくないのではないだろうか。
いつまでこんなウソだらけの政治が続くのだろう。