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かんぽ不適切販売は、ノルマの問題ではない

郵便局によるかんぽ生命の「不適切販売」が明るみに出て、ひと月あまりになる。
発端は、山形県の一人暮らしの老人が、契約した覚えのない保険を契約させられていることに、その子供が気付いたことだった。
調べてみると、別件に関してタブレット上でサインをしたものを、保険契約書類のサイン欄に勝手に転写されるという偽造によるもので、「郵便局がそんなことをするのか」と、多くの人が驚いた。

 

「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」――。郵便局によって違うが、契約を結びやすい一人暮らしの高齢者に対し、こんな呼び方をする局員が一部いる。かんぽの新規契約者のほぼ半数は60代以上。高齢者を中心に、郵便局ブランドは絶大な信頼感がある。局員に頼まれると断れない顧客は多い。自らの預金通帳を警戒感なく局員に見せる人もいる。ノルマに追われ、販売実績を上げるため、高齢者頼みの契約に走る局員もいて、汚い隠語が定着したようだ。
(2019年7月27日朝日新聞)

 

これは、中でも極めて悪質なケースだが、こういう犯罪として捜査すべきレベルの案件が複数明らかになった。
そして調査が進むと、新規契約獲得のポイントで「手数料」をより多く稼ぐことばかりに専念し、顧客の契約が不利となろうがなりふり構わない、売り手都合の契約や解約が大量になされていたことが明らかになった。

 

かんぽ生命の不適切な保険販売が、2014~18年度の5年間で計18万3千件にのぼることがわかった。
(2019年7月31日朝日新聞)

 

日本郵政、およびその子会社の社長が出てきて謝罪会見、現場のノルマを撤廃することを表明した。
これは、企業が現場職員を、キュウキュウになるまでノルマをかけて使い倒すブラック企業案件なのかと、最初はそんな印象を受けた。
が、調べてみると、どうも話はそんなに単純ではないようだ。

 

そもそも、小泉政権の郵政民営化で作られた、この企業のあり方が無理ゲーを強いられているのに等しいという、大前提の問題が根底にある。

 

郵政民営化を経て現在は、「日本郵政」という親会社の下に、「日本郵便」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」という三つの会社が子会社として共存し、連結決算するグループとして成り立っている。
ここで考えなければならないのは、いわゆる郵便業務・郵便局の運営を担っている「日本郵便」が、全く商売にならないということだ。
全国津々浦々、過疎地から離島まで郵便局を配置し管理する。
これが一般企業の支店や窓口だったら、さっさと店じまいするようなところでも、国の重要なインフラである郵便局にはそれが許されない。
また、手紙を出すという行為自体も減っているので、純粋な郵便業務で一企業として成り立つのは、もはや不可能になった。

 

「日本郵政」という親会社の下で、金融機関である「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」が利益を上げることで、赤字インフラである郵便制度が辛うじて支えられているのが現状なのだ。
だから、「日本郵便」の窓口である郵便局は、いくらかでも赤字を埋める足しにしようと、必死になって「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の商品を顧客に売って手数料を稼ごうとする。

 

日本郵政の下で、肩身の狭い思いをしている「日本郵便」なのだが、かといって、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」も、こちらはこちらで、実はなかなかの無理ゲーを強いられている。

 

例えば「ゆうちょ銀行」は、他の銀行にはない「預け入れ限度額」というハンデが課せられている。

 

ゆうちょ銀の預け入れ限度額を2600万円に倍増へ、民業圧迫と金融界
現在は通常貯金と定期性貯金を合わせて1300万円となっている限度額を各1300万円とし、2倍に引き上げる。
金融業界はゆうちょ銀の完全民営化の道筋が不透明な中では、公平な競争条件が確保されず民業圧迫に当たると反発。
(2018年12月26日ブルームバーグ)

 

2019年の4月から限度額が2倍になったが、「民営化」と言いつつ、完全な一企業になったというわけではなく、こうしたハンデを常に政府から与えられ、ハンデを緩めるとなれば、金融業界の団体から圧力がかかる。

 

一方、「かんぽ生命保険」も同様だ。
新商品を発売する時は、政府の認可が必要になる。
つまり、よりニーズに合ったお得な保険商品を開発し販売しようと政府の認可を申請すると、その商品が同業他社より優れていれば、業界団体から圧力がかかる。
「民業圧迫に当たる」という、ゆうちょ銀行の時と同じ圧力だ。

 

また、大きなところでは、「かんぽ生命保険」は米国アフラックと提携したことで、自前の「がん保険」を販売することができない。
TPP交渉に後から入れてもらう形になった日本が、「参加料」として米国にかんぽ生命を差し出したという噂もあったが、そもそも米国がTPPに入るのをやめてしまったし、なにがどうなっているのやら分からない。
が、「売り渡された感」だけは、はっきりとある。

 

また2013年には、西室泰三氏が安倍首相の強い引きで、東芝を潰したその足で日本郵政の社長におさまり、オーストラリアの物流会社トール社を買収するも4000億円という巨額損失を出し、責任も取らずに退任してしまったという事件もあった。
ただでさえ無理ゲーを強いられている企業に、この意味不明な人事と巨額の損失は大きな爪痕を残したことであろう。

 

それからほどなくして西室氏は鬼籍に入ったが、日本の大企業を踏み散らかし、文句を言われる前にさっさと世を去った手際の良さに、空いた口がふさがらないと思ったことを記憶している。

 

そんなこんなしているうちに、今度は日本郵便が、アフラックで顧客に不利益な契約を結ばせていたということが発覚した。

 

日本郵便が販売したアフラック生命保険のがん保険でも、保険料の二重払いや無保険状態といった顧客に不利益となる契約が新たに発覚した。乗り換え契約の制度上の不備が原因で、2018年5月からの約1年間で10万件超に上っていた。アフラック社は再三にわたって改善を求めていたといい、識者からは「なぜ制度の不備を放置したまま販売を続けたのか」と疑問の声が上がる。
(2019年8月21日西日本新聞)

 

とにかく政府から無理ゲーを強いられているので、こんなことでもしないと成り立たないのが現状なのだろう。
さまざまな不正が発覚して、日本郵政全体がマトモな商売になったとしたら、今度はグループの経営が危ういということになりそうだ。
ゆうちょ銀行の不祥事は今のところ出てきていないが、このままいけば、「年寄りに分けも分からず外貨預金の商品を売っていました」なんていう案件が出てきてもおかしくない。

 

今回の一連の問題は、ノルマを課された「働き方」の問題ではなく、郵政民営化そのものに瑕疵があった、というところに早く帰結しないと、さらに大きな問題に発展しそうな気がする。
小泉政権から始まった「国家の財産を外国に売り渡す」政策は、着実に安倍政権に引き継がれ、放っておけば次政権でも売れるものはどんどん売り飛ばされていくだろう。
早く国民がこれにしっかり気が付いて歯止めをかけないと、将来さらに取り返しのつかないことになる。

 

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