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関電幹部のポケットにも入った原発マネー

関西電力の幹部たちが、2011年から2017年までの間に、福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(2019年3月没)から総計3億2千万円に上る金品を受け取っていたことが明らかになった。
その幹部とは、全部で20人いるということなのだが、現在公開されているのは、

八木誠会長
岩根茂樹社長
豊松秀己元副社長

の、3名だけで、他のメンツは明らかになっていない。

 

このニュースを最初に知って、「おや?」と思ったのは、カネの着地点がこれまでのケースと違うことだ。
「寄付」などの名目で電力会社から、政治家や自治体などにカネが届けられることはよくあったのだが、電力会社幹部、それも個人のポケットに入ってくるというケースは、今までにもちょっと聞いたことがない。
この点に驚いた人も、少なくないと思う。

 

では、元助役はどこからそのカネを引っ張ってきたのか。
原発関連工事を請け負っていた、高浜町の建設会社「吉田開発」とだという。

 

建設会社は1981年設立の「吉田開発」。信用調査会社によると、2013年8月期の売上高は3億5千万円だったが、15年8月期は10億円を超え、18年8月期には21億円を上回った。関電の原発関連工事が業務の多くを占めていた
(2019年9月28日共同)

 

助役にこういうカネを回すことで、たった5年間の間に売り上げを6倍にも引き上げることに成功した。
この「吉田開発」が、元助役・森山氏を介して、関電の幹部に3億円以上のカネを送っていたわけだから、その工事価格が適正だったかどうかも怪しい。

 

この小さな町の元助役・森山栄治氏とはどういう人物だったのか。

 

元助役は、ことし3月に90歳で亡くなりましたが、原発関連の工事の受注に大きな影響力を持っていて、地元の建設会社の間では、仲介がなければ受注は難しいという認識が広がっていたことが複数の会社への取材でわかりました。
このうちの1人は、NHKの取材に対し「影響力が絶大で、話を通さないと原発関連の工事の仕事がもらえなかった」などと話しています。また、関係者の多くが「当時の町長よりも大きな力を持っていた」と話していて、「裏の町長」などと呼ばれていたということです。
(2019年9月28日NHK)

 

「裏の町長」とは恐れ入った。
しかし、残念ながらこの「裏の町長」は、すでに亡くなっており、彼に事実関係を質すことはもはやかなわない。
いや、「裏の町長」が亡くなったことによる財産分与などに国税庁の調べが入ったことが、「きっかけ」になったとも考えられる。
実に皮肉な話だ。

 

では、存命中の関電幹部がどんな言い訳をしているかというと、これがまた想像を超えた図々しさを披露している。

 

法律上の違反行為にはあたらないとの認識を示し、「対価的行為はなかった」と明言した岩根氏。自身の進退についても「会長とともに再発防止を確実に実施していく」とし、辞任を否定社内の調査報告書は公表する予定はないとした。
(2019年9月27日産経)

 

「法律違反ではない、出処進退で責任を取る気はなし、社内調査を公表する気もなし。」
これだけ赤裸々な汚職が明るみに出たにもかかわらず、なにをする気もないというのだから、あきれて言葉が出ない。
岩根社長は会見で、問題のカネを「返却するつもりの一時的な預り金」とも表現している。
世間が考えるほど、当人たちには「悪いことをした」という自覚がない。

 

福島原発事故以降、原発をめぐる倫理的に問題があるカネの動きが、それ以前よりずっと社会の注目を浴びることになった。
しかし、この案件はそうした事故直後から7年間に渡り行われていたもので、厳しくなった世間の目など一顧だにしないふてぶてしさも窺われる。

 

昨今では、自民党の閣僚が不正献金を受け取っても、返却を言い訳に罪を逃れ、説明もなく入院し、検察も起訴すらしないまま世間が忘れたと思われる頃に、再びちゃっかり大臣に任命されるような事態が相次いでいる。
政治権力に近いところにいる人たちにとって、こうしたスキャンダルも、ノラリクラリと世間の批判をかわしていれば、いずれ忘れられるものとタカをくくっているのかもしれない。

そういう「政権に近い人」の感覚をよく表している例が、中西経団連会長による次のコメントだ。

 

経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は27日の定例記者会見で、「詳細な情報が分かっていない」としたうえで、「八木さんも岩根さんもお友達で、うっかり変な悪口も言えないし、いいことも言えない。コメントは勘弁してください」と語った。
(2019年9月27日朝日新聞)

 

この人たちは、天上界の人だろうか?
一般市民とのこの感覚の差はなんだろう。
不正にカネを受け取った行為に関して、経団連会長としてコンプライアンス感覚を問われ、「悪口は言えない」とは、いったいどういう回答なのか。
こういう言い方はできればしたくないのだが、「バカなのか?」と言わざるを得ない。
型通りでも、「事実であれば遺憾」くらいのことを、なぜ言えないのか?
この「オトモダチ」と「ワルグチ」というワードから、政財界の腐りきった倫理感覚が垣間見える。

 

ただ、関連ニュース全体を注意して見てみると、政権の態度は今回に限ってなにかちょっと違う。

 

菅官房長官「社会との信頼関係の上で、事業を進めるべき電力会社の役員が、不透明な形で金品を長年にわたり受領していたことは大変な問題だ」と批判
(2019年9月27日産経)

 

「批判は当たらない」「問題ない」が定番コメントの菅官房長官の会見だが、この問題に関しては厳しく批判するコメントを口にした。
常識的な社会では当たり前のことだが、半ば狂った現政権下で官房長官からこういうコメントが発せられるのは、実は意外なことなのである。

 

菅原一秀経済産業相は27日の閣議後記者会見で、「事実だとすれば、極めて言語道断でゆゆしき事態。原子力の立地地域の信頼に関わる。事実関係の徹底解明をして経産省として厳正に処する」と述べた。経産省は同日中にも関電から事情を聴く方針。
(2019年9月27日朝日新聞)

 

菅原経産相も同じく、態度は厳しい。

今回に限っては、政権が不正問題をまじめに追求してくれるのだろうか、そうとも取れるが。
この意外な動きに関して、これを、政治が手を突っ込んだ関電内部の権力闘争ではないかと疑う意見もある。
ちょうど日産で起きた、政治を巻き込んだゴーン氏と西川氏の社内闘争、あの構図だ。
いずれにせよ、この問題は細部までキッチリ明るみに出してほしい、というのが一国民としての願いだ。

 

この国には、コンビニのコーヒーベンダーで「50円をズルした」という̚咎で窃盗容疑をかけられる市民と、3億円受領をうやむやに出来る市民が、同じ顔をして共存している。
小さな罪にばかり目を光らせ、大きな罪に無関心になるこの風潮は、なんとしても変わってもらいたい。

 

「50円ズル」の過去記事はこちら。

コンビニコーヒーで50円相当の窃盗に問われた事件が全国ニュース?
この一地方都市の軽犯罪を、全国紙で取り上げる価値がどこにあったのか、メディアは合わせて書くべきだったのではないかと思う。・・コンビニでコーヒーを買うことへの覚悟を問われたような、居心地の悪さだけが読後感に残る。

追記2019年9月30日

9月30日、今まで「元助役」とされていた人物が、工事を受注していた「吉田開発」の顧問でもあったことが発覚。
この事件において、明らかにメインの肩書はこちらになる。
発注・受注の企業間で背任行為が行われていたという構図に、話が変わってきた。
これは関電幹部も逃げ切れないだろう。

 

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