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化学大手カネカが育休で炎上中

今日、こんなニュースを見かけた。

《男性の育休取得6.16%に》
厚生労働省が4日発表した「2018年度雇用均等基本調査」(速報版)によると、・・・上昇は6年連続となる。担当者は「共働き世帯が増え、夫婦一緒に子育てするという意識が年々高まっている」と分析した。(2019年6月4日共同)

男性の育児休暇取得が、6年上昇し続け6%台にになったと、厚労省は喜んでいるような印象を受ける。
上昇しているとはいえ、制度化しても6%の人にしか取得されないというのは、むしろ高すぎるハードルがあることを想像させられる。
「夫婦一緒に子育てするという意識」というのは、子をもうけた「当事者の意識」なのか、それともそうした方がいいと感じる周囲の「第三者の意識」なのか。
前者、後者によって、状況は大きく変わる。

 

実は、このわずか数日前に、大手化学メーカー「カネカ」の元社員の家族が、ネットに育児休暇を巡った会社とのトラブルを書き込みし、それが炎上している。
下が、その発端となったツイートだ。

これは、「なんてひどい」と共感するリツイートで、瞬く間に拡散された。
さらに、その拡散が広がりきる前に、日経ビジネスがいち早くこの問題を取材し、ネット記事に上げたことからビッグバンのように広まった。
ご覧のように、ツイートは実名ではなく、続くツイートでも社名はボカしてあるので(キャッチフレーズでバレバレなのだけれど)、世の中にありそうなヒドイ話として漠然と共感を得ていたものにすぎなかった。
しかし、この記事により、話は無名の一人の嘆きから、一気に裏の取れた企業スキャンダルに発展する。

 

記事がアップされた6月3日に読みに行ったときは、タイムアウトになってしまいなかなか繋がらなかったので、おそらくものすごいたくさんのアクセスが一度に押し寄せたのではないかと思う。
日経ビジネスの記事はこちらのリンクから。

「育休復帰、即転勤」で炎上、カネカ元社員と妻を直撃

経緯をざっくり説明すると、

40代の共働きの夫婦、、その夫が育休から職場復帰した翌日に上司から転勤を命じられた
新居を購入し、同月に入居したばかり
子どもたちの保育園もようやく決まり、妻の職場復帰も翌月に控えていた
やむなく夫が退職を決意するが、その前に有休を消化することは認められず
ーーーーーーーー
これに対する各部署の反応
→人事「よくあることですから」
→労働組合「日程の変更はできない」
→東京労働局「違法性はないが、モラルの問題。どうしても会社に残りたいのであれば仲裁に入る」

会社もヒドイが、労組、労働局がここまで何の役にも立たないことに驚く。

会社からこのような不当な扱いを受けても「違法でない」とする法律とはいったいなんなのか。

あまりに下手を打ったカネカの対応

またこの間わずか2日間、カネカの企業としての対応は、ちょっと大企業とは思えないほど稚拙で下手を打っている。

 

まず、日経ビジネスの取材に「指摘されている企業がカネカかどうかはっきりしない」としてノーコメント。
と、ほぼ同時に会社のHPから「ワークライフ・バランス」という、仕事と家庭を両立するための福利厚生に関するページが閲覧不可能となった。
その翌日、「ワークライフバランスの項目が消えたのは、ページを削除したわけではなく、システム障害なのです」という意の「言い訳レター」をサイトトップに掲げている。

 

さらに同日社長が、複数の社員に向けて以下のようなメールを送っていることが、漏れてしまった。

2019年6月3日
社員各位
社長
昨日6月2日より、SNS上に当社に関連すると思われる書き込みが多数なされていますが、正確性に欠ける内容です
育児休業休職直後に転勤の内示を行ったということはありますが、これは育児休業休職取得に対する見せしめといったものではありません
十分な意思疎通ができておらず、着任の仕方等、転勤の具体的な進め方について当該社員に誤解を生じさせたことは配慮不足であったと認識しております。
春の労使協議会でも述べたとおり、「社員は最も重要なステークホルダー」であります。
今回のような行き違いを二度と発生させない様、再発防止に努めます。
以上
カネカ続報、「即転勤」認める社長メールを入手

各社の取材を受けない理由として、「当社の社員の妻であるという確証がない」と言っているが、この社長のメールからは、少なくとも「書かれたようなやり取りが社員とあった」こと、「当該ツイートが自社のことである」ことを、すでに認めていることが窺われる。

しかし、なんと言っても文面がいけない。

社員に対して、生活を継続させる危機を与えておきながら「誤解」とは、もはや笑えてくるしらじらしさだ。
そして、いったい何を「再発防止」するのか?
それは社員の生活を無視した業務命令ではなく、社員とのあくまで「行き違い」を防止するとしか聞こえない。
この社長さん、今回の事件が社会にどんな影響を与えるか、現時点でも全く理解していないと言っていい。

 

この一件、たぶんこのままなんとなく終わるほど、甘い結末ではないはずだ。
ネットで拡散された醜聞というのは、早いうちに正しく対応しないと、どんどん炎上することを、この社長をはじめ会社は分かっていないように思う。
さらにもう一つ理由がある。

厚労省が企業にあたえる「くるみん認定」制度

厚労省の「次世代育成支援対策推進法」に基いた「くるみん認定制度」というのがある。
産休や育休取得などを社内で奨励し、少子化対策に積極的に取り組む姿勢を申請することで、厚労省から「優良企業」としての認定を受けられる。
カネカはこの認定を受けていた。

 

これに認定されれば、まず消費者に対して「優良企業」アピールを出来ることはもちろんだが、就活の学生などにも、「政府認定の意識の高い企業」としてアピールが出来る。
さらにそれだけでなく、税制優遇や公共調達における加点評価という、実務的な優遇措置もある。

 

つまり、こうした認定を受けておきながら、現場では育休を取得した社員に懲罰めいた人事を施すような二枚舌を使っていたことになる。
政府認定の優良企業だと思って就職した学生も、たまったものではない。

経団連に名を連ねるほどの大企業が、二枚舌を使い世の中を騙したうえに、行政の優遇まで受けるという極めて反社会的な行為に及んでいることに、残念ながら前のコメントから察するに、カネカの社長は全く気付いていない。

男性の育休取得率は上がるのか

さて、最初のニュースに戻るが、男性の育児休暇取得率が年々上がっているとは言っても、厚労省の目標は2020年までに13%である。現時点の6%とはずいぶん開きのある数字だ。

 

厚労省の担当者は、「共働き世帯が増え、夫婦一緒に子育てするという意識が年々高まっている」などと、子育て当事者の意識を分析している場合ではない。
当事者がそうしたくても、それを許さない、理解のない周囲の第三者が日本にはたくさんたくさんいるのだ。
政府が早急に手を付けるべき啓蒙活動の対象は、若い人たちではなく、出産世代ではない中高年だということに早く気づくべきだ。

 

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